今日も黒を纏って
私たちは色のある世界で生きている。
"透明"というものもあるけれど、その色を身に付けることができない以上だれにでも好んで身に付ける色はあると思う。
私の場合はそれが黒で、基本的にパステルカラーとは相容れない。
(こんなブログタイトルで何を言ってるんだという感じだけど)
特にピンクは遠い存在で、自分から曇りのないピンクの洋服を身に纏ったことはたぶん一度もない。
思えば、好きになるキャラクターや人も黒が似合う人が多かった。
黒に負けない凛としたひと。そういう人に憧れる。
背筋はすっと伸びていて艶のある黒髪に紅い唇、その上つややかな黒の洋服をさらりと着こなす。
パーソナルカラーでいえば絶対にブルベ冬。
そんな私の数多くいる推しキャラの中でも
個人的に最も黒が似合うと思っている人物がいる。
まっくろのワンピースにあかいリボン、それからホウキがトレードマークの女の子。
魔女の宅急便のキキだ。
そんなわけで本日のおすすめ図書。
キキは「黒の中の黒」色の洋服を着ている。
それが魔女のしきたりなのだ。
としごろの女の子でかわいいものが好きなキキは、コスモス色の洋服で旅立ちたいとただをこねたりもするけれど。
キキはとってもかわいい女の子だ。
この物語にはちいさな魔女キキのキキらしさがいっぱいに詰め込まれている。
たぶん話の大筋やキキととんぼさんのお話なんかはジブリ映画『魔女の宅急便』でよく知られていると思うから、ここでは原作の小説に出てくるキキのお洋服にまつわる素敵なお話をいくつか紹介したい。
ひとつめは一巻め『魔女の宅急便』に出てくるお話
7. キキ、ひとの秘密をのぞく
ある日キキは贈り物とお手紙のとどけものを頼まれる。
頼んだのは同い年の女の子。
彼女は「くるくるとまるまったこい茶色の髪」で「うすいピンクのセーター」がよく似合う大人びた女の子だ。
キキは好きな男の子に誕生日の贈り物をとどけてほしいという彼女が、あんまりきれいで大人びていて、そんな女の子の書いた手紙が気になって気になってつい覗いてしまうのだ。
キキが黒の似合う女の子ならば、この女の子ミミはまさにピンクの似合う女の子だ。
コスモス色のワンピースに憧れていたキキが、あこがれのような複雑な気持ちを抱いてしまうのはとても理解できる。
うすいピンクのセーターのえりもとに、万年筆を差してブローチのように見せるなんてとてもおしゃれだ。
小学生のときにこれを読んだときはわたしも憧れてたまに真似していた。
でも、悪いことはするものではない。
そうやってのぞき見た手紙は風にさらわれて川の中へ流れていってしまうのだ。
さて、キキはちゃんととどけものが出来るのだろうか?
そして手紙はどうするの?
キキの13歳の女の子らしい一面が、同い年の女の子のお客さまと出会うことで見られる一篇だ。
ふたつめは、2巻『魔女の宅急便その2 キキと新しい魔法』
7.キキ、おしゃれの自分を運ぶ
奇しくもつづけて7章になった。
キキは秋のある日おソノさんにすてきな洋服を売っている古着屋さんを教えてもらう。
アレコレ市でけやきの木2本に品物をつるして、お店にしているウイさんの古着屋さん。
キキは
でも、わたしはこの洋服って決まっているから
なんていいつつ、おソノさんに勧められてアレコレ市へ向かうのだ。
たぶんキキは最初ただただ見に行くだけのつもりだったと思う。
おソノさんの言っていたように、きれいな色のリボンくらいは買っていたかもしれない。
ジジと魔女の服にボタンをたくさん縫いつけてボタン屋さんをしようなんて話しながら、けやき並木へ向かった。
(この時に「まねきねこ」になってお店を手伝うと言っているジジがとてもかわいい)
だけどキキは行く途中で二人でアイスクリーム食べるとんぼさんとミミを見かけてしまう。
ミミはとってもかわいいちょうちん袖の、いちご色のワンピースを着ているのだ。
キキはなんだ不機嫌になってしまって、さっきまでたのしく話していたジジも不機嫌になってしまう。
そうして二人に話しかけることが出来ずにウイさんのおみせへ行くと、キキが昔憧れていたようなコスモスのワンピースがそこには売られているのだった。
そのワンピースを見たキキがどうするかは読んでみて頂くとして、
古着屋さんのウイさんが書いた詩がわたしはとても好きだ。
じんじんしてる
目をつぶっても
じんじんしてる
いきをとめても
じんじんしてる
にげようとしても
じんじんしてる
たぶんきっとキキも自分の着られないいちご色のワンピースを着るミミを見て、そんなかわいいミミとたのしそうに話すとんぼさんを見て、
じんじんしてしまったのだろう。目をつぶっても、いきをとめても、にげようとしても。
読んだわたしもすこし、じんじんしてしまう。
そんなお話だ。
そしてみっつめ、3巻『魔女の宅急便その3 キキともうひとりの魔女』より
10.川辺の散歩ホール
この巻では、本来ならば「ひとつの町にひとりの魔女」のはずがコリコの町にもう一人の魔女ケケが現れる。
なにもかも風変わりな魔女ケケに、キキとともに心がざわつく巻だ。
とんぼさんとどんどん仲良くなってしまうケケ。
町でうわさになっていくケケ。
そんなケケとコリコの町の人々に心をかきまわされるキキの元へ、以前のお客様・歌手のカラさんからコンサートのお招きが届く。
仲よしのお友だちとふたりでいらしてください、と。
キキは決心します。
ぜったい、ぜったい、行くわ。仲よしのお友だちと!
そしてキキはすこしずつためた貯金を持って、おしゃれをするために町へでかけるのです。
横にボタンでぱちんととめるベルトがついた、つやつやした柿の実のような色のハイヒール。
まっかなマニキュアと、すみれのにおいの香水。
そして、靴にあったうすいミカン色(夢見色という素敵な色)のスカートがふるふるした洋服。
そんな全力のおしゃれでキキはカラさんのコンサートに向けて準備をするのだ。
ここのキキはとってもかわいい。
とってもかわいいけれど、なんだかかなしい。
キキはカラさんのコンサートにとんぼさんを誘って行く。
そんなキキに
ねえ、ねえ、もちろんぼくもつれてってくれるんでしょ?
そう言うジジがかわいくてつらくて、猫贔屓の私は思わず「キキのバカ!」となってしまうけれど。
でも、キキの気持ちもとってもわかるのだ。
好きなひとと素敵な服を着てコンサートへ行く。
とっても素敵な出来事だ。
きっと今かき回されている胸の中も、どきどきと楽しい気持ちでいっぱいになるだろう。
けれど……。
さぁ、夢見色のお洋服を身にまとって、赤いマニキュアを塗って、柿の実色の靴を履いて、
キキととんぼさんのコンサートはどんなものになるのでしょうか。
以上の三篇がよく知られている『魔女の宅急便』のおすすめポイント キキのお洋服篇でした。
キキはわたしの知る限りいちばん黒の似合う女の子だけど、だからこそコスモスや夢見色のお洋服に憧れるのかもしれない。
ここでふと、キキのお母さんであるコキリさんの言葉をおもいだしてみる。
魔女の黒の中には、この世の中のすべての色がはいってるのよ。むかしから人のねがいをできるだけ受け入れようとしてきた魔女には、いちばんふさわしい色なのよ
(「魔女の宅急便その2 キキと新しい魔法」より)
やっぱりわたしは黒に惹かれるし、キキはとびきり黒が似合う女の子だなと思う。
全6巻の『魔女の宅急便』、キキの成長をぜひ見ていってはどうだろうか。
ジブリ映画しか観てない!というひとも、映画も観てないというひとも、きっとなんだか懐かしくちいさな魔女を見守ってしまうはずだ。
わたしは今日もキキを胸に黒いお洋服を着るのだ。
だって
黒は女を美しく見せるんだから!
(映画版『魔女の宅急便』よりおソノさんの言葉)
(映画の方もとってもおすすめですよ)